三線には、完成品、セミオーダー、フルオーダーの3つの購入方法があります。ここでは、一般的な購入方法である完成品とフルオーダーを中心に三線購入時のポイントを記載します。最近はネットで簡単に三線が購入できる時代になりましたが、いざ買うとなるとやはり状態が気になりますよね。
三線職人の眼からみて、最低限はここを見たほうが良いというポイントを5つに絞って買いてみます。ぜひ参考にしてみてくださいね。
三線は、琉球王朝の時代から棹がとても大切なものとして考えられてきました。楽器としては棹と胴のバンラスによって良い音を作ることは間違いないのですが、棹に使われる木材の希少性もあってか、胴よりも棹が重んじられる風潮があります。
特に昔から八重山産(石垣島周辺の島々の総称)の黒木は重宝され、三線の棹として貴重なものとして使われてきました。しかしながら、硬く経年による変化の少ない黒木は加工木材としてとても人気があるため、三線だけではなく、高級家具や他楽器にも利用され、急速に伐採されていきました。
結果として、現在ではここ沖縄だけでなく、世界的に希少品種に認定されるほど枯渇しています。
沖縄ではその昔より黒木の伐採を禁じられており、沖縄本島、八重山地方共に入手することが困難な状況になりました。黒木は木の成長にとても時間がかかる品種のため、三線を作るほどの木材に育つには100年~200年の月日が必要と言われています。よって、入手が困難なことからも黒木 = 値段が高いのがその理由です。
また、黒木が重宝されてきた最大の理由は、音の伝導にあります。黒木の芯(黒い部分)はとても硬く、適度にしなるのが特徴です。この硬くしなる木が、音の振動を確実に胴へと伝え、良い音へと繋がるのです。三線の世界では、これを"響く棹"と言ったりします。
原木の種類 | 価格帯 |
八重山黒木、沖縄本島産黒木 | 50万円以上 |
八重山ユシ木の実入り | 40万円以上 |
ユシ木 | 10万円 ~ 30万円 |
カミゲン黒木 | 30万円 ~ 50万円 |
カマゴン、縞黒檀 | 15万円 ~ 30万円 |
その他雑木(紫檀、チュン木など) | 1万円 ~ 10万円 |
八重山黒木 = すべて素晴らしいわけではありません。木はそれぞれ特徴がありますから、良い木もあれば悪い木もあります。
ただし、現在の価格は希少性が反映されていますので、良い木も悪い木も希少性が高い木はすべて高額な値段となっています。
一概には言えませんが、納得のいく一本をお探しの方は、黒木かユシ木をおすすめします。ユシ木も黒木に肩を並べる良材で、昔から三線の原木として重宝されてきた木材です。
三線の棹に使われるユシ木は主に八重山産と山原産(沖縄本島北部)が有名で、黒木よりも柔らかで伸びのある音と言われています。芯にあたる部分を実と呼び、芯を使った原木はユシ木の実入りと呼ばれます。実入りは希少で音も良いため、人気が高く、価値も高いです。さらに、その実の部分が黒褐色の木材は黒ユシ木と呼ばれ、黒木と同等の価値があるとされています。カマゴン、縞黒檀も黒木の一種ですが、八重山黒木に比較的近いとされるカミゲン黒木よりは値段が低めに設定されていることが多いです。
買う前に、気になる三線の木の材質は何か、ぜひ調べてみましょう。
インターネットで購入する場合は判断できないですが、もっとも確認したほうが良いことの1つは、棹が曲がっていないかです。
三線の棹はエレキギターなどと違い、棹は木一本で作られています。木も水分や杢目の影響で、時間と共に右や左、上や下に曲がっていくことがあります。この経年のねじれがないように、三線にする木材は十分な月日をとって木を寝かせます。何年も寝かせた木は水分を蒸発させ、乾燥し、動きが止まります。
しかし、残念なことにあまり木の動きを見ずに作られた三線が世の中には販売されていて、棹が曲がっていることがあります。
棹が曲がっていると弦が不必要に当たってきれいな音がでなかったり、ちんだみ(チューニング)が合わなかったりしますので確認できる場合は必ずねじれを確認することをおすすめします。
店頭で三線を購入する場合、写真のように三線の猿尾(胴の下から出ている棹の一部)側から天を下にして木がまっすぐかどうか確認してください。当然職人レベルの細かい木の動きは判断がつかないかと思いますが、一般の人が見て曲がっているような三線も残念ながら存在します。古い三線などは、曲がっていることもよくあります。セミオーダーやフルオーダーで三線を製作する場合は、これらの問題はまずありませんのでご安心ください。
図のように上下に反っている場合は、状況にもよりますが棹を削ることでまっすぐ修理します。当然削りますので棹は少し細くなります。
左右に曲がっている場合も圧着するなどで修復が可能なこともございますが、一番良いのは曲がっていない三線を買うことです。
三線の胴は、太鼓と呼びます。太鼓には、ヘビ皮が張られています。たまに勘違いされた方がインターネット上でハブの皮などと書かれていますが(沖縄のイメージなんでしょう...)、ハブはここまで大きくありません。三線はニシキヘビの皮を使って張られています。
その昔はバナナの木を切り倒し、中に溜まった樹液を接着剤がわりにして、ヘビ皮ではなく絹を張っていたそうです。ヘビ皮は大変高級な輸入品だったんですね。
現在では東南アジアで量産体制が整備されたこともあり、一般の方でもヘビ皮の三線を持つことが可能になったわけです。
一般的に胴は、本皮一枚貼り、強化張り、人工皮の三種類があります。本皮一枚張りとは文字通り、木で作られた胴にヘビ皮を一枚張ったものです。もっとも音質が良く、CDなどで聞く三線の音はほぼ間違いなく本皮一枚張りの音です。
デメリットしては、湿気の変動によって破れることがあり、耐久性が他の張り方に比べるとやや劣ります。
一方で、耐久性に優れているのが強化張りと人工皮です。
人工皮とは、文字通りヘビ皮模様の人工で作られた布を皮に見立ててはるものです。布ですので、ヘビ皮のように破れることはありません。耐久性を重んじる方や、ヘビの皮が苦手な方は人工皮を張られるケースがあります。しかし、音は残念ながら本皮に比べて篭った音になりがちです。
本皮 = 破れるというイメージがありますが、普段から三線を弾いている方は5年も6年も破れないという話はよく聞きます。あまり弾かない、保管状態が悪いなどのケースはおすすめできませんが、基本的には本皮一枚張りがもっとも三線らしい音を奏でるためおすすめです。
張りの強さ |
解説 |
10分張り |
目一杯締めた状態。高音でキンキンした音。 古典向き。 |
7 ~ 8分張り | 古典~民謡まで使われるスッキリとした音色。 |
5分張り | 張りが弱く、柔らかい音。破れにくい特徴も。 |
三線を購入する際に、もっとも気になる点は音ですよね。音の種類、いわゆる音色を決めるのが皮の張りの強さです。張りの強さとは、胴に使われる木の枠に、どれだけの力でヘビ皮が貼られているかによって決まります。
目一杯の力でピンピンに張ったものを10分張りと言います。数字が下がるにつれて、張りの強さが弱まります。ピンピンに張ると、キンキンした高音になり、弱く張るとボワンボワンといった柔らかい音になります。この分数は、張る人の感覚値なので、10分 = この音と決まったものがあるわけではありません。
一般的には古典は張りを強く、民謡は柔らかめの張りを好む人が多いです。この張りの強さはヘビ皮の強度にも関係してきます。
皮の質や厚さにもよりますので一概には言えませんが、強く張ったヘビ皮は弱く張ったものよりも破れやすい側面があります。
極端な話ですが、もし音色が気に入らなければ、皮を張り直すことで好みな音になる可能性はあります。追加で費用はかかりますが、音色は後から変更することが可能なものと知っておくと良いかもしれません。
三線には、基本的に7つの型が定められています。
南風原型、知念大工型、久場春殿型、久葉の骨型、真壁型、平仲知念型、与那城型です。これは、昔々の三線工の名前から取られています。真壁型とは、昔の三線職人の真壁さんが作った形の名前です。厳密には7つの基本形から派生した型もありますから、実際に売られているものは7種類以上あります。
もっともポピュラーな型は真壁(まかび)型。次に与那城(ゆなー)型と知念大工(ちねんでーく)型が多く作られています。
久場春殿型、久葉の骨、平仲知念などは前述の3型と比較すると圧倒的に少ない型です。
どの型が優れている、どの型が良いなどのものはなく、ご自身の好きな型をお求めいただければ問題ありません。一般的に民謡奏者は真壁型が多く、古典音楽は与那城型が多いイメージがあります。
一説には、舞踊の地謡(踊りのバックバンド)を務める古典音楽などは、曲の最後の一音で調弦を変えることなどもあるため、カラクイ(糸巻き)の感覚が広い与那城が多く使われているとの話もあります。
また、真壁型は諸説ありますが、均整のとれた見た目から好まれる方が多く、市販で売られている三線の主流は真壁型になっています。
尚、型については『三線の型について』のページで
”沖縄県文化財調査報告書第110集”
を引用し、記載いたしましました